三島由紀夫が語った「お茶漬けナショナリズム」をバカにできない理由【適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第39回
■乃公の国には富士山がある
ことさらに「日本すごい」と叫んだり、近隣諸国の悪口を言うことをビジネスにしている人たちがいる。現実を直視するのが怖いから、勇ましいことを言って仲間内で傷をなめ合う。特に日本が三流国に転落していくのと軌を一にして、あの手の連中が表舞台に出てきた。傍から見れば、日本は世界情勢(特にアメリカ)に流され続けているだけなのに、「日本は主体的な選択をしている」と思い込みたい。そこで自己欺瞞が始まる。
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夏目漱石は、西欧の近代化は必然だったが、日本は違う道を辿ったと言う。西洋の開化は内発的だったが、日本の開化は外発的だったと。日本は開国しなければならない状況に追い詰められ、無批判に近代を受容した。近代が「外発的」だったがゆえに、近代を警戒する姿勢も「外発的」にならざるを得なかった。日本に保守主義が根付かなかった理由はこれだと思う。漱石は言う。
《これを前の言葉で表現しますと、今まで内発的に展開して来たのが、急に自己本位の能力を失って外から無理押しに押されて否応なしにそのいう通りにしなければ立ち行かないという有様になったのであります。それが一時ではない。四五十年前に一押しされたなりじっと持ち応えているなんて楽な刺戟ではない。時々に押され刻々に押されて今日に至ったばかりでなく向後何年の間か、または恐らく永久に今日のごとく押されて行かなければ日本が日本として存在出来ないのだから外発的というより外に仕方がない》(「現代日本の開化」以下同)
《こういう開化の影響を受ける国民はどこかに空虚の感がなければなりません。またどこかに不満と不安の念を懐かなければなりません。それをあたかもこの開化が内発的ででもあるかのごとき顔をして得意でいる人のあるのは宜しくない》
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相手国のミサイル発射拠点などをたたく敵基地攻撃能力(
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漱石は日本の未来を悲観した。
《外国人に対して乃公(おれ)の国には富士山があるというような馬鹿は今日は余りいわないようだが、戦争以後一等国になったんだという高慢な声は随所に聞くようである。中々気楽な見方をすれば出来るものだと思います》
今の日本は《乃公の国には富士山があるというような馬鹿》で溢れている。
文:適菜収
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- 目次
はじめに−−「B層」とは何か?
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第一章 内田樹と『日本辺境論』
辺境と偏狭
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
B層グルメと某評論家
B層という言葉が出てきた経緯
なぜ日本はこんなことになってしまったのか?
ルース・ベネディクトの『菊と刀』
安倍晋三の行動原理
学問のブレイクスルー
マイケル・ポランニーと暗黙知
百人一首を暗記する意味
「型」を知るということの贅沢
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第二章 自立を拒絶する人たち
白井聡の『永続敗戦論』
終戦記念日という欺瞞
冗談は櫻井よしこさん
「サヨク」と「保守」の自己欺瞞
「主権の欲求不満」の解消
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第三章 「正義」を笠に着る人たち
ウクライナ首都の名称変更は「正義」なのか?
「人間は見たいものしか見ない」
社会的リンチというB層の「正義」
人種問題における「正義」の暴走
「ルッキズム」批判は「正義」なのか?
言葉狩りは「正義」なのか?
若年層に選挙権を与えるのは「正義」なのか?
山本太郎と「正義感」について
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第四章 陰謀論に走る人たち
「無知の知」と「無恥の恥」
不道徳としか言えない果物屋
「維新に殺される」
新型コロナは「バカ発見器」でもあった
ひっくり返って駄々をこねる老人たち
Yahoo!ニュースのコメント欄
知識はあるけど教養がないバカ
デマは言論の自由にあらず
社会の変化は元には戻らない
99%の人が知らない話
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第五章 無責任な人たち
安倍の次は維新に騙されるB層
メディアの劣化が止まらない
大阪都構想のデマと事実隠蔽
総選挙で湧いてきたB層
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第六章 恥知らずな人たち
飼い犬の遠吠え
安倍晋三の本質を映し出す一枚
ツッコミ待ち政治家だらけの国
日本の崩壊に気づいていないB層
日本最大の権力者は「改革バカ」
「ジューシー」発言は外部の拒絶
悪意なく嘘を重ねる人々
カルト化した自民党広報本部
百田尚樹の「歴史改ざんファンタジー」
日本人は悪に屈したネトウヨ用語を使い騒ぎ出した元首相
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おわりに−−人間は過去を忘れ野蛮は繰り返される